第5回青少年育成セミナー H9.11.1.(土)午後1:00〜5:00
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会
場 |
三島市民生涯学習センター5階美術工芸室
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講
師 |
筑波大学生物科学系教授 横浜康継氏「海洋植物から地球環境を学ぶ 」
グラフィックデザイナー 野田三千代氏「海藻おしばを楽しむ 」
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「海洋植物から地球環境を学ぶ」筑波大学生物科学系教授 横浜康継 |
伊豆半島の付け根にあたる三島市の市民にとっては、海は身近かな存在なのだが、海中を見る機会はそれほど多くはないだろう。三島市に限らず、四面を海に囲まれた日本に住む私達は、海の幸に恵まれた生活を送り、日常さまざまな海の生物に接しているが、彼等がどのようにして暮しているかは、ほとんど知らない。中でもノリ、ワカメ、コンブなどの海藻頬は、生物としての形さえ知る人はまれだろう。また私達は毎日のように接している食卓でのイメージから、海藻を大変地味な植物と思い込んでいる。しかし生物としての彼等は大変カラフルで造形美にも富んでいる。
ワカメの色をたずねると、たいていの人は緑と答える。食品として鮮度のよいワカメは緑色だし、植物の葉が緑なのは常識なので当然ではある。しかし生きたワカメ、コンブ、ヒジキなどは褐色を呈している。緑色の葉緑素と赤い色素が共存しているためなのだが、熱を加えたりすると、赤い色素が黄色に変り、葉は緑色になる。テンクサのような赤味を帯びた海藻には、もちろん赤い色素が含まれているが、深い海底に生える海藻には赤い色素は必需品である。なぜなら、沿岸部の深所には太陽光の成分のうちほとんど緑色光しか届かず、そして緑色光を効率よく吸収できるのは赤い色素だからである。
海藻の中には赤い色素を含まず鮮やかな緑色を呈したアオサやアオノリのような種類もあるが、同じ緑藻類に属していてもミルの仲間などはみる色(褐色がかった暗緑色)である。これらは赤い色素を含んでいるために深い所で暮せるが、赤い色素を含まない鮮緑色の種類は浅い所でしか暮せない。
今から六億年前頃までは、オゾン層の発達が不十分で、強い紫外線が降り注ぎ、陸上はもちろん海中でも浅い所には生物が住めなかったため、赤い色素を含まない緑の植物の生きる場は無かった。海中に漂う植物プランクトンや海底の海藻が光合成を営んで放出する酸素からオゾンが作られ、一方同時に吸収された二酸化炭素は石油の形で地下に封じられた。そして約四億年前になってから緑の海藻の一種が安全になった陸上へ進出して陸上植物になった。そのために陸の森や草原はすべて緑なのだが、植物は緑という陸の常識に従わないカラフルで美しい海藻達の存在を知ることは、地球環境の本質的な理解への糸口となる。海藻おしば作りを楽しんだ子供達はこれからも糸をたぐり続けてくれるだろう。
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「海藻おしばを楽しむ」筑波大学下田臨海実験センター 野田三千代 |
陸の植物の押し葉や押し花は体験した人も多く、その存在を知らない人は無いくらいです。それにひきかえ、海の植物である海藻となると、おしばにできるなんて「本当?」と思ってしまう人がほとんどです。味噌汁の中のワカメをそのまま押したような姿を想像してしまうのでしょう。ところが実際の海藻おしばは「これが本当に海藻?」と思われてしまうほどに色と形の美しいものが多いのです。
陸の植物は、カラフルな花を咲かせますが、葉はすべて緑です。ところが海藻は花を咲かせない葉だけの植物なのに、葉そのものが赤や茶や緑そしてそれらの中間色など、絵の具より多彩です。そして水中での生活に適した海藻の形は、陸では考えられないようなユニークで繊細なものが多く、中には枝々に無数の浮袋をつけた種類まであります。
カラフルで造形美にも富む海藻の素晴らしさを、日本中ばかりか世界中の人に知ってもらうことが私達の夢ですが、筑波大学下田臨海実験センターの横浜研究室では、これまでの学術的な標本作製法を改良しながら、海藻の色や形を十分に活かしたグラフィックアート的な「海藻おしば」作りの手法を工夫してきました。十五年以上を経て、ようやく陸の押し花と同じ感覚で楽しめる域に達し、今では伊豆の各地に広がり、時には遠隔地の講座へ出かけるようになりました。
三島市での初めての海藻おしば作り講座が新世代育成セミナーの中で開かれました。ハガキやシオリ用紙をバットの中の水に浸し、その上に色とりどりの海藻のしなやかな枝先を載せて組み合せると、思い思いのデザインが生まれる。教室の中はシーンとしてしまい、「授業でもこれくらい熱心にやってくれたら」と学校の先生が嘆くほどです。海藻おしば作りを体験すると、海藻が好きになり、美しい彼等の住む海を汚さないようにしようという気持ちが芽生えます。
海中にも海藻の茂る森や草原があって、魚介類の住居や産卵場所となり、海水も浄化するという重要な役目も果たしています。またカラフルな海藻達は地球環境変遷の歴史の証言者でもあります。海藻はその存在価値の大きさにもかかわらず、余りにも知られざる存在のままでした。私達は海藻おしば作りを通して彼らの声を伝え続けたいと思います。
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